僕の左の胸には、黒いあざのようなものがある。 ずっと、幼い時に自然と浮き出てきたと思っていた。 誰に聞かれてもそう答えていた。
5月22日朝方、ある夢を見た。 何か体に傷のようなものを沢山持った謎の人物が枕元に立ったのである。 その人の呼びかけで、僕はある記憶がよみがえった。 その記憶を見て僕は涙を流した。 幼い頃の記憶であった。
幼い頃、僕は苦行をしていた。 それは、あまりにも限度を超えた苦行であった。 何か体の胴体の部分に刃物で深く紋章を刻み込んでいた。 時には、彫刻刀で胃袋までにおよぶ雷のような紋章を刻み込んでいた。 当然、その苦行は血だらけになって、両親に病院に何度も連れて行かれ治療を受けた。 しかし、その傷は紋章のようなものとなり、胴体に残っていった。 何度もやったので、この紋章のような傷は20カ所から30カ所にもなった。
このことに困った僕の両親は、うちの子を助けたいという思いで考えた。 苦行といえばやっぱり最初に思い浮かぶのは、インドの宗教である。 そう考えた僕の両親は、インドの礼拝堂のようなところ(あまり定かではないが)で、偉い人に相談した。 その答えは、「苦行は悪い事ではない。」との事だった。 これでは、うちの子はまた同じ事を繰り返してしまうと考えた僕の両親は、今度は秘密裏で苦行している人がいると言われているキリスト教に助けを求めた。 そして、キリスト教の教会の神父か牧師に尋ねた。 そのところ、その子の体を見せてくれと言われ、僕の胴体を見せた。 これを見た神父か牧師は、「これは、聖なる子。」と言った。 そして、神父か牧師は親切にしてくれたが、僕の両親はこれでは解決になっていないと考え、教会から離れた。
そして、困り果てた僕の両親は、日本の陰陽師のような人のところへ僕を連れて行った。 そこで相談したところ、「仕方ないですね。ご両親もこんなに困っているのでは。」と言った。 そして、こう言いそれを実行した。 「この子を悪魔が宿った子として、苦行の記憶を消し、その体の傷を悪魔の宿ったしるしに変えましょう!」
それから、僕はこの左胸の黒いあざのようなものを見つけると、「なんだろう、この黒いあざ。自然に出てきた。」 母も「どうしたんだろうね、それ。」と言った。 この事は、5月22日謎の人物が夢に出てくるまで、何とも思わなくなった。 両親も忘れてしまったのだろうか。 今の今まで精神病にはかかったが、何事もない普通の家庭がそこにあった。